明日の雲ゆき

最近は大河ドラマの感想ばかりです。

麒麟がくる【感想】第17回 長良川の対決

今回も目一杯、高政を擁護しております。
映像は美しく感動的だったのですが、ところどころツッコミ入れたい。まあこれは、野暮な行為なんだと思う。エンターテイメントとして素直に道三のかっこよさや息子との一騎打ちに燃えるのが、正しいのは分かってるけどさ。

  • 娘婿を毒殺し、守護を脅して追い出して美濃を掠め取ったじゃん、道三てば。高政との一騎打ちの口上は、どういうつもりだったのか。わざとダブルスタンダードな言い草で人の業の深さを表現している、というふうに好意的に取ることもできなくはない。けど、目の前に流れる映像に裏読みする余地はなく、潔く強くかっこいいモッくんがいる。確かに映像とルックスにはひれ伏したくなるくらいの説得力がある。でも積み重ねてきたストーリーを思い返すと、引っかかる。ここで一気に冷めてしまった。自分のやってきたことをなかったことにしてる、というか忘れてるかのような主君を「誇り高い」という十兵衛にも力が抜けた。「大きな国は美濃の命運を賭ける価値があった」だったら納得できたかも。
  • そもそもどうして高政という妾腹の子を嫡男にしたのか。正室に、ちょっと不出来とはいえ男子がいたのに。高政が父を嫌うのと、道三が息子を嫌うのと、正室に男子が生まれたのと、どれが一番目なのか分からない。第1回より前だというのは確実ですけど。
    ドラマではそこらへんの経緯は全く出てこないし、第1回から道三は息子を見下してる感があったし、ダメなところがあるとしても嫡男として鍛えようという様子も見えず、なんかこうモヤモヤが収まらない(いっそ十兵衛の方が息子のような扱いをされてる)。
  • 高政の方からしたら、徹底的に父親から嫌われて、でも母親は彼が家督を継ぐことだけが望みの綱で、間に挟まれてさぞ苦しい少年〜青年時代を送ったのだろう、と同情する。せめて母親が愛妾ではなく、きちんと側室の扱いをされてたら、まだ救いがあったかも。
  • それが多少セコケチで品がない父であっても、高政が信頼されてる実感が持てれば、土岐頼芸に取り込まれることはなかったんじゃない? 道三としては高政が頼芸に惑わされていく様子を見てたら、イラつくしムカつくだろうけど、八つ当たりの様に「本当の父は自分だ」と怒鳴ってしまったら、ますます溝は深まるだろうに。それでは自分の思い描く豊かな美濃は、どんどん遠ざかるぞ。もう息子も美濃の未来もどうでもよかったのか?
  • でも、織田家のごたごたを描いた時間は、斎藤家に比べたらずっと少ないのに、見ていてすごく納得できた。小さい信長が母上のために大きな魚を釣ろうとする姿は容易に妄想できる。
  • ともかく初回からあんなに雑に扱ってきた子を最期に「自分の子」と(良い意味でも悪い意味でも)主張するなら、ここに至るまでの間に親としての心理を断片的にでも(というか、はっきり描くのは無粋なので本当に微かでいい)見せて頂きたかった。道三のキャラには、結局最後まで心の綾を感じることはできなかった。最期だけみると、本当は高政から素直に「父上」と呼んで欲しかったのだろうと思えるけど。
  • 妹がいたずらに弟を煽ってきたので国が割れるのを避ける意味もあって(後継が二人立ったら収集つかなくなるでしょう)弟を手にかけ、頭に血が上った父親が戦を仕掛けてきて、幼馴染も敵になり、一人になってしまった高政。と、ここは敢えて高政の側から語ってみる。
  • 道三が感情むき出しで槍を構えて向かってくるのを、表情殺して仁王立ちで待ち構える姿に、高政の全てを背負う覚悟が表れていたと思う。ゆるゆると道三の背後に近づく自軍の兵(いくらか逡巡しているようにも思えた)が元当主を刺せば自分の勝ち、それより先に道三の槍が自分を突けば、自分に従う者はなく周りから当主として認められなかったのだと肚をくくる、みたいな感じ。父を手にかける度胸がないだけなら、兵が道三を囲んだ円の中からさっさと抜ければいいのに、あえて大地に根を張ったようなポーズで待ってる。でも稲葉はなんかやりそう。
  • 史実ではこの後、高政は良く美濃を治めることになるものの、早世します。もし若かりし頃の話どおりに十兵衛が支えてくれたら、尾張とうまいことやっていけたかもなーとか、高政が亡くなってから信長にやられることもなかったかもなーとか、いろいろと妄想がはかどります。
  • 帰蝶さまの言う「愚か者」はこの戦に関わるすべての人のことですが、一番の愚か者は自分だと思っていそうです。思いつきで弟をけしかけなければ、きっと誰も死なずに済んだのだから。
    伊呂波太夫を呼び出した件、父の最期の花道を飾るために帰蝶が兵を送ったのだと(前回では信長が援軍を出しそうになかったから)思ってしまったが、父を逃す段取りのためだったのね。
  • 叔父上は城とともに討ち死を選ばれた。明智家の別れについては、素直に泣けました。領民との繋がりも深く、領地替えを拒否したかった気持ちもわかる。叔父上から十兵衛に渡された水色桔梗の旗は、きっと最後のほうで効いてくるんですね。母上は、もしかしたらあの場に残った方がお幸せだったような気がしないでもないです。で、今回わたし的に一番かっこよかったのは伝吾だ。
  • ただ、高政が攻めてくると言ってるのに、そんなに悠長に話してる余裕はあるのか、とちょっと問い詰めたい。

道三の衣装をまとったモッくんの存在感のすごさに、良くも悪くもいろんなものが引っ張られたんだなぁ思う次第。