明日の雲ゆき

最近は大河ドラマの感想ばかりです。

「風立ちぬ」菜穂子さんについて

 先日のテレビ初放送が初見。いまさら感想書くのもアレですが、次の放送まで放っておくと自分の思ったことも忘れるトリ頭なのでメモっておく。

 この映画、大雑把に言って良かった派とがっかり派に分かれるけど、私は良かった派。もうネットではストーリーの解釈や感想、映像の素晴らしさは書き尽くされているから、キャラクターについて思ったことだけ書いてみる。ジブリでは初といってもいいくらい、主人公とヒロインに血が通っていたと思うので。

 これまでのジブリ映画、作画や演出は好きだったが、ヒーロー&ヒロインは若いくせに人間が出来すぎなところが嘘っぽくて、正直あまりキャラに思い入れはなかった。いつも優しくて真っ直ぐで純粋でキラキラしてる人って、どうも胡散臭くてあまりお近づきになりたくない。優しくて親切で愛想良しのイケメンがいたとして、その実態は自分では何も決めない奴だったりとか、その優しさは押し付けがましさ100%だとか、うざい重たい束縛する肝の小さい男っていうことだってある。その点、二郎さんは分かりやすい人だった。口当たりの良い綺麗事を言う男より正直で、ずっとマシだ。

 菜穂子さんについては、自分の美意識に生きた人だと解釈している。彼女に対して健気あるいは可哀想などという感覚は湧かなかった。サナトリウムを抜け出すというのは、医者や家族の立場からしたら相当に我儘な行為。重病人なのに他人の家で世話になって新婚生活ってのも、常識人にはできない真似だ。そもそも夫の仕事が最優先事項であるなら、この状況で結婚すること自体間違ってる。彼女は世間の常識とは別世界の人で、この夫婦は案外似た者同士だと思った。二郎さんだけが物を作る人ではなく、彼女も絵を描く人だったのだから何かを残したかった気持ちはあったのだろう。けど、死の病・結核に冒された身に残された時間はない。だから自分を夫に向けた一世一代の作品にし、作品がだめになる前に立ち去った。そうすることによって二郎さんの心の中で永遠の存在になった。身勝手だし歪んだ美意識だが、別の見方をすれば見れば夫のために命を削った健気で可哀想な妻といえなくもない。でも彼女はそんな他人の思惑など超越したところにいて、ただ自分のやりたいことを清々しいほどにやりきった。無謀な企てを貫徹する意思の強さは紛れもなくジブリのヒロインだった。