明日の雲ゆき

最近は大河ドラマの感想ばかりです。

おんな城主直虎/第6回 感想

直親、見た目は人当たり良く爽やかな青年、でも昔ほどピュアじゃない。それでいて無自覚で無神経。無自覚ってのが一番タチが悪い。意識して爽やかな青年を演じている部分もありそうです。が、にっこり笑って超えちゃいけない一線を平気で飛び越えるのは、考えがあってのことではなく、無意識的な欲望や快楽の発露って感じがします。

逃亡生活の10年間で、体を鍛え武術は磨いても、政や人をまとめることは学ばなかったのか、亀之丞。かわいそうな境遇だからって、周りの人に大事にされすぎたのか。亀の人生も大変だっただろう。けど、関心が政情や人ではなく自分自身の心にしか向いてないみたい。そんな人は当主の器ではない。

次期当主のくせに「葬るのは我が心」なんて、悲劇の主人公ぶってスカしてる場合じゃねぇぇー、家と領民のことを考えろ(もうすっかり、鶴に肩入れしてます。)

  • スズメを懐かせることに成功した竹千代に、ツンデレ瀬名姫。これは思いがあって嫁ぐことになるのでしょう。竹千代の声が高めで可愛かった。
  • 奥山さんも他の家臣も無神経。というか代替りしたばかりの若い筆頭家老を舐めてかかってる。井伊谷のために直親と奥谷の娘の結婚は妥当でも、言い方や手順があるでしょうに。
  • 今回は本気でご隠居様消えてくれ、と思ってしまった。亀の厨二病っぽい浅知恵に乗っかるとは。ここまでくると、井伊家の男が全滅しても哀しいとは思わないかも。第4回の感想で書いたように和泉守の命を助け直満の所領を半分取り戻した直盛父上をちょっと見直したけど、前言撤回です。千賀母上と次郎がいれば、お家はなんとかなります。
  • そもそも、第3回の蹴鞠勝負で無理やり勝ちをもぎ取った図太いおとわを知ってる今川は、次郎法師が世を儚んで身投げした、なんて話は信用しないんじゃないか。
  • 出家することになったのは自業自得でもある、と言ってた次郎法師。10年間いろんなことを考えたんだろうな。と、想像したらヒロインがとても愛おしくなった。

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ものすごーく久しぶりに絵を描いた。最後に描いたのは5年以上前。ノートパソコンにはペンタブをつけてないので、無理やりトラックパッドで色塗りした。

第6回の感想に合わせて落書きでもいいから何か描いてみようとしたとき、鶴でも傑山でもなく迷わず竹千代になったので、私の無意識の一押しは竹千代なのかもしれない。徳川はあんまり好きじゃなかったんだけどな。

 

おんな城主直虎/第5回 感想

ブコメ回でした。このドラマは主人公の年齢に合わせて描くのでしょう。次郎法師が年頃の娘さんだから、ラブコメタッチ。1〜4回は子供のおとわだから、おとぎ話のようにゆったり・ほのぼのしたテンポで。

  • 竹千代、すごいよ、ちゃんと13歳に見えるよ。アップになるとアレだが、ちょこまかした身のこなしが子供らしいのかな。「平清盛」で北条政子の初登場(確か10歳くらいの設定だったと思う)の時も演じてる人は大人なのに、子供に見えるのすごいなと思った記憶がありますが、中の人の年齢を考えると、その上を行った。
  • 瀬名姫、怖い。怖さの表現がコメディっぽく、次郎法師のラブコメと同じ路線でした。これがマジで怖い表現になるだろう頃のことを思うと、いたたまれない気持ちになる。蹴鞠勝負に燃えてた頃が、瀬名姫の一番幸せな時だったのでしょうか。
  • 亀、あんなに脳筋だったなんて意外。と思ったが、ご隠居様-直満さんの血筋なら、こういう青年になるのは当然なのかも。ご隠居様も若い頃は亀のような人だったんだろうか。もしかしてご隠居様が亀に「お前が次の当主だ、みんな待ってる、必ず井伊に戻すから」的な文をずっと送り続けていたとしたら、帰還した時の意味もなく堂々とした姿もわかる気がする。でもキラキラ王子っぷりは、なんか苦手。今回で1推し/傑山、2番手/鶴になりました。
  • 鶴改め但馬守政次、今回も安定の不憫さ加減。丁寧でへりくだった言葉遣いと、子供の頃のようなくだけた言い方の混ざり具合にときめく。
  • ご隠居様が小野家を嫌う訳は佐名様の件。なんとなく気に食わないということではなく、それなりの理由はあったわけだけど、ややこしくなったのは和泉守の偽悪趣味のせいですか。
  • 和泉守はもうすぐ死ぬという時まで、「お前は必ずわしと同じ道をたどる」なんて息子に呪をかけるような言い方しなくてもいいのに。次郎法師に話した佐名様の件は七割方は真実かな、という気がします。それでも今さら善人ぶりたくないってことか。そこまで貫けばアッパレだが、息子は辛いな。
  • 和泉守を静かに問いただす次郎法師は、修行の跡がすごく感じられた。もう昔のアホの子おとわではないところを目の当たりにしてしまったために、和泉守は息子にねじくれた物言いをしたのかな、と妄想。
  • 和泉守が亡くなって亀が戻った途端、政次の扱いがぞんざいになる井伊家、大人げないにもほどがある。和泉守が嫌われたのは仕方ないにしても、わだかまりを捨てて政次を小野家の新当主として大事にしてやれば、井伊のためになっただろうに。家臣団をまとめる好機を無駄にしてしまった。ご隠居様が元気なうちは、どうにもならないのでしょうか。南渓和尚だけが頼り。

ブコメの裏で、井伊家の駄目っぷりを畳み掛けてくる展開でした。どん底からどう這い上がるのか、ますます楽しみになってきました。

pixivのアカウントとプロフィール公開

今年の目標【妄想するだけで満足せず形にする】を実行すべく、pixivのアカウントを取りました。もう自分でサイト作ってhtmlと格闘しなくても、二次だろうがオリジナルだろうが公開できる場所があるって、ありがたいことです。

で、プロフィールの画像くらいは有り合わせでいいから何か載せとこうと思い、「プロフィールを見る」をクリックしたら、登録の時に入力したものが全部「公開」になってるよ……何の説明もなかったのに……こういうのデフォルトでは非公開にして……。
何にも作品を載せてないうちは、公開だろうが非公開だろうが関係ないけど、とりあえず先に気づいてよかった。プロフィール画像を載せるついでに、全部非公開にしました。

これからpixivに登録する方は、pixiv IDのメール認証が完了したら、作品を見たり公開したりするより前にまずは「プロフィールを見る」をクリックをお勧めします。
人によって公開しても気にならない項目と、絶対非公開!な項目があるでしょうし、「設定」の項目は一通り確認してみたほうが良いかと思います。

載せたい文章は1つ書き上がりました。が、使い方というか投稿の仕方がよくわかってません。表紙の画像はやっぱり作ろうかな。

おんな城主直虎/第4回 感想

子役で4回分、ネットでは賛否両論でしたが、私は結構好きでした。もう少し見ていたい気もしましたが、あともうちょっと〜と思うくらいでちょうど良いのかもしれません。
おとわのキャラ立てだけでなく、この先の鶴丸のエピソードに説得力を持たせるために、子供時代に時間をかけることが必要なんだろうと想像してます。

  • ご隠居様は柱に縛り付けておいた方がいい物件でした。
  • 千賀母上、褒める、おだてる、叱るのコンボが素敵。おだてられて、すぐその気になるおとわ。
  • 直盛父上、半分くらい覚醒。ギリギリで全てを立てた感じ。ご隠居様が暴走するのは困る、押さえ込めば家臣が納得しない、太守様の心証も考慮しなくてはならない。これが安房守だったら、和泉守はさっさと斬り捨て太守様にはしれっと作り話で取り繕う、とかやりそうだけど、はったりが家風な御家があちこちにあるのはイヤだな。良くも悪くも純朴なのが井伊家の家風。
    枯れた生け花のカットが不穏だった。
  • 猪突猛進で、まだアホな子のおとわ、周りに叱ったり教えたりしてくれる大人がいるし、なんだかんだ言って幸せな姫様だ。大人だけでなく、鶴も意見してくれるし。
  • 托鉢の件は修行というより、領主教育の第一歩だったのかな。蕪盗み食いしたのはちゃんと謝りに行ったのだろうか。鶴との会話の感じから謝ったと思いたい。小さいめ以子も食い意地の張ったアホの子だったなあ。
  • 鶴丸は今回もやっぱりかわいそうだった。現代風に言うならアダルトチルドレンまっしぐらですよ。戦国時代の跡取息子とはいえ、まだ元服前だよね。父上はホントに時々でいいから子供扱いして、思いやりのある言葉の一つくらいかけてやってもバチは当たらないと思うの。思ってるだけじゃ、伝わらないことはあるんだよ。大人になるのが早い時代だし、いつも優しい必要はないんで、ここぞ、という時だけでいいから。あの自己肯定感の低さからして、物心ついて以来、親から優しくされた記憶が一切ないんじゃないかと心配になる。
  • 父上→鶴は同族嫌悪、ってのもあるような気がしてきた。決して愛情がないとは思わないけど。
  • 今回、意外にも鶴を真っ当に子供扱いしてくれたのは直盛さんでした。鶴から父を奪いたくなかった、って。

予告の亀がすごく軽い男に見えるんですが。儚げな美少年に何があったのでしょう。

おんな城主直虎/第3回 感想

第3回を見て、今年の大河ドラマは何一つ思うようにならなかった・できなかった人々の群像劇なのかも、という気がしてきました。

井伊家は最終的には勝ち組でも、おとわ個人はままならない人生を歩んだ人だし、ここまでの登場人物は、ほとんど思い通りにならないまま退場ですよね。

  • 直平に誘拐された上に「弟も誘拐しないとダメだよ」という鶴丸も、今川を乗っ取るつもりで龍王丸と結婚したい瀬名も闇を持っている。いい家に嫁入りしたい野心はいいが、瀬名のは母の闇をもろに受けてのことだから重苦しい。で、この子たちは辛い最期を迎えるというのを、見てる方は知ってるからますます辛い。
  • 蹴鞠シーンがまるで一昔前のスポ根マンガだったおとわ。それなりに知恵も回るし、気丈でガッツのある姫。心に闇は欠片も持っていない。子供らしく無邪気。人の心の闇や自分の浅はかさを思い知るのは、これからなんだろうな。
  • とはいえ鶴丸がああだし、亀もあんなだし、ヒロインまで空気読んで小賢しいとドラマ全体が暗くなりそうだから、子供らしい子供でいて欲しい。でも今のところ、鶴丸の行く末が一番気になっている。
  • 姫が人質にならずに済んで、とりあえず良かったかもしれないが、代わりに井伊さんをボロボロになるまで使い倒す気でいる今川さん。飴→鞭より鞭→飴にしといた方が何かと使いでが良さそうだし、効果的よね。
  • スポ根蹴鞠が冗長だったので飽きられてしまい、その後の今川さんの黒い会話シーンをちゃんと見てもらえなかった気がする。そのせいでネット上の意見が割れている。
  • 南渓和尚と佐名様は腹の底に色々と抱えながらも現実を生きてるのに、その父上の直平さんは、なぜ単純で戦ドリーマーで血の気が多いのか。

「思うようにいかぬ時、いかに振る舞うか」というとり様@真田丸の言葉を、なんとなく思い出したのでした。

「真田丸」最終回フラグクラッシャー・きりちゃんに希望を託してみた

1つ前で書いた、書きたいことが、これです。(pixivで公開している物と同じ内容です)
真田丸は2016年の最大の楽しみといってもいいくらいで、ほとんどリアルタイムで観ていました。

茶々様と最終決戦前の源次郎の会話シーン「望みを捨てなかった者にのみ道は開ける」一見すると「良い事を言う主人公」な流れでした。が、和睦に関する策は絵空事であることは、何話か前の回ではっきりしてます。(源次郎が千姫に面と向かって、あなたは人質だから云々とひどいこと言っちゃう回)

本気か気休めか、意識的だったのか、深く考えずにその場の流れで口走ったのか。「私の愛した人」に柴田の父上は入っても太閤殿下は入れてもらえなかったから、ささやかな復讐として呪いの言葉を吐いた、ってのはさすがにないか。

とにかく、その場を丸く治めるために機転を利かせた言葉と言ってしまうには残酷だなあと思ったら、放送中も見終わってからもそればっかり気になって、最終回のメインイベントであるはずの家康とのやりとりも吹っ飛んでしまいまして……はい。
ということで、このモヤモヤを晴らすためフラグクラッシャー・きりちゃんに希望を託す小話を書きました。

 

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 黒煙立ち上るお城を目指して、きりはひたすら歩いた。徳川の陣に千姫様を送り届けた帰路である。

 千姫様が陣中に駆け込むと、大御所様——白地に金糸を織り込んだ陣羽織の老人がきっとそうだ——が弾かれたように立ち上がって姫を抱き止め、隣に立つ武将が破顔した。あの将が父上である秀忠公なのだろう。
 恐怖と緊張から解き放たれた千姫様が父と祖父を前に、ようやっと涙を笑顔を見せたのを確かめると、きりは静かに一礼し目立たぬようにその場を辞した。

 きりに目を留める者は誰一人いない。徳川が歓喜に沸き立つ様を背に感じながら、小走りに駆け抜け、雑木林に飛び込んだ。往きは護衛の兵も付いたが、帰りは独りだ。
 今朝方、父から貰い受けた小柄を懐に忍ばせてはいるが、女一人で戦場にいるのを雑兵に見つかれば、面白くないことになるだろう。だから見通しの良い道を避け、藪の中に分け入った。

 蒸し暑い風に乗って、鬨の声が流れてくる。いつぞやの、いかにもやる気のない単調なものではない。腹の底にずしんと響くような、耳の奥まで震えるような本物の声だ。千姫様による助命嘆願は金輪際ありえない。姫様奪還によって勢い付いた徳川の軍勢が、やがて裸城を飲み込むのだ。
 お上様はきりが良い知らせを持って城へ戻り、やがて徳川の使者が訪れると信じていた。城の外はそんなに優しくないことも、千姫様の本音もまるでお分かりでない。周りが寄ってたかって目も耳も塞いで来たからだ。
 でも信じて望みを持って、あのお方は初めて前を向いた。真田が寝返ったという噂が流れてもなお、威厳を保っていた。
 ずっと苦手だったけれど、憑き物が落ちたお上様となら、案外うまくやっていけそうだ。このままお仕えし続けてもかまわない。
 だが、お上様の抱いた望みの中身は空っぽ。この期に及んでまやかしの望みを与えられたと判ってもなお、あのお方は静かに最期の時を受け入れられるだろうか。
 それを策だという話の中身を信じたのか、話した人を信じたのか。まったく罪な話を騙ったものだ。そういうおのれにしても、お上様と面と向かえばどうしても本当のことが言えなかった。となれば、罪の大きさは大差ないのだろう。何もかもままならない人生で初めて持った望みが、こんな有り様とは、あまりに惨い。
 往路の途中で、木々のすき間から源次郎が馬を駈るのを見た。がむしゃらで向こう見ずで、きらきらした真田家の次男坊がそこにいた。人生を賭けて思い続けたその人の晴れ姿だった。しかし、大将が単騎で突撃するという状況が意味することは、ただ一つ。明日はない。お上様に対して、今生で源次郎が謝ることも言い訳することも叶わない。
 気がつくと涙が一筋、流れていた。悲しいのか悔しいのか、よく判らなかった。藁草履の足は泥にまみれ、木立の枝や夏草をかき分けた手はすり傷ができている。濡れた顔を手の甲で拭うと、ぴりりと染みた。
 気持ちを奮い起たせ、足を速める。
 真田左衛門佐の戦が家康の首を取ることなら、これはきりの戦だ。
 踏みしめた下草から立ち上る緑の匂いが、信濃の山野の記憶を呼び覚ます。源次郎のいない信濃に帰りたい訳ではない。ただ無性に懐かしかった。あの頃から歳月を重ね、少しばかり重くなった我が身がもどかしかった。子供のように身軽なら、もっと速くもっと長く走れただろうに。気持ちばかりが先走り、足が思うように前に出ない。とうとう息が続かなくなり、その場に膝をついた。
 肩で息をしながら、空を仰いだ。初夏の陽が傾きかけている。金色の木洩れ日が揺れた。そして林を越えた辺りから聞こえる馬の嘶く声や兵の怒号に混じって、早蝉の鳴いているのに気がついた。
「しょうがないなあ、もう」
 あえて声に出してつぶやく。そして、軽く握った拳を二度三度、地べたに叩き付けた。
 単に覚悟の問題なのだ。何があっても源次郎に付いて行くと決めたのは、自分だ。だから、その何かを引き受けるのも自分しかない。
 信濃の空も大坂の空も一続きであるように、広い心持ちで、どんなことになろうとお上様の気持ちを全て受け止める。正直言って、受け止めきれる自信はない。
 でも——もう、それしかないじゃないか。

 いつだったか九度山の屋敷の庭で、今は菩薩の心境だ、などと大層な物言いをしたことを思い出した。今度こそ本当に、菩薩の境地に至らなくてはならないらしい。
 源次郎には、三途の川のほとりで再会したら、あの澄ました顔にまんじゅうの一つも投げつけて、鬱憤を晴らしてやろうと思う。いいえ、まんじゅうは持っていけないだろうから、河原の石で充分だ。言葉の重みをあの世で思い知るがいい。


 心は定まった。
 城にたどり着く事だけを考え、黙々と歩いた。だが足が重い。
 これが暑さと喉の渇きから来ているのは確かだ。どこかに湧き水か小川でもないものか。喉を潤せば、進む力も湧いてくるだろうと、辺りを見回しながら進むと、鄙びた社を見つけた。
(神様は、いるんだ)
 思わず独り言ちた。夕日を受けたその社は、この世にわずかに残った望みの徴に思えた。
(あのお社の手水鉢のお水をいただこう)
 身を低くし、そろりと近づいて茂った生け垣の外から聞き耳を立てる。物音はしない。しかし人の気配は感じる。兵が休んでいるなら、甲冑の鳴る音などがするはずだし、こんな日に土地の人がいるとも思えない。早鐘を打つ胸を押さえながら、重なった枝の間から目を凝らした。
 境内には白刃を上段に構える素破と、もう生きて会うことはないはずの、あの世で河原の石を投げつけてやるのだと決めていた男がそこにいた。
 七分の驚きと三分の喜びが入り混じって頭に血がのぼり、鳥居の下に走り出ると、仁王立ちになって叫んだ。
「あなたたち、何やってるの」
 佐助はゆっくりと刀を下げて地面に置き、ひざまずいた。源次郎は短刀を逆手に握ったまま、呆けたようにきりを見つめている。そして二人の近くには、喉を切り裂かれた徳川兵の骸が二つ転がっていた。
 答えを聞くまでもなく、事の次第は容易に察せられた。
 だが、潮目は変わった。きりの戦は勝てるかもしれない。
 見たところ、二人とも大きな怪我はしていない。生きていれば言い訳もできるし、良いことだってあるだろう。潔く終わらせるのも、泥にまみれて足掻くのも同じ一生ではないか。そして源次郎がいる世なら、泥にまみれて足掻く価値がある。
「おまえ……何でこんなところにいるんだ」
 源次郎はきりの問いに答えず、逆に聞き返しながら、手にしていた短刀をゆるゆると鞘に戻した。中空を漂っていた心がようやく身体に戻ったようだった。
「千姫様をお送りして、お城に帰る途中です」
「そうか……そうだった。すまん。ちょうどいい、考え直してくれ。このまま沼田へ帰れ……頼むから」
 諦観の笑みを源次郎はきりに向けた。
「なに言ってるんです、わたしはお上様のところへ戻るって、言ったじゃないですか。源次郎様、お願いがあります。一緒にお城に戻ってください」
「ここが潮時だ」
 源次郎はまばたきさえすることなく、つぶやいた。その目はきりの姿の向こうに、彼岸を見ている。
「お上様に、なに言ったんですか」
 ここで踏ん張らなければ終わりだ。言葉だけの慰めや癒しなど、後からいくらでもくれてやる、とおのれを奮い立たせる。
 きりは努めて冷静になろうと、間を置いてから境内に足を踏み入れた。
「朝から気持ち悪いくらい落ち着き払っていたんですよね、お上様。でも、まさかこちらから『どうしたんですか』なんて尋ねるわけにもいかないし」
 辺りに流れる徳川兵の血の臭いのせいなのか、胸の内から冷やかな熱が湧き上がり、その熱に押されるように続けた。
「お城を出るときになって、お上様は言いました。『いざという時、千姫は和睦の使者となる。望みを捨てぬ者だけに道は開ける、と源次郎が教えてくれた』って。わたしはそんな話、少しも聞いてませんでしたけど。本当にそんなこと言ったんですか」
「言った」
 源次郎はすいっと目線を外した。
「あの人、骨の髄までお姫様なんですから。あなたのいうことなら、何だって信用しますよ。望みを持つのはいいです。でも千姫様が和睦の使者になるなんて、本気で思ってたわけ、ないですよね」
「いや……でも、どうあれ伯母と姪、従兄弟同士。いざとなれば……」
「そんなの無理だって、知ってたんでしょ。千姫様はご自分のことで精一杯で」
「ああ、そうだ、だから何だというんだ」
 いらついた源次郎が開き直った。だから、つい口が過ぎた。駄目だと頭ではわかっているのに。
「最後の最後で信じていた人に騙されたんだ、って思うでしょうね。それで、恨みながら死んでいくのよ」
「では、わたしはどうしたら良かったんだ。怯えるお上様を置いていけというのか。おまえは、それが人として正しいというのか」
「じゃあ、じきに偽りだとばれる気休めは、人として正しいってことですか」
「あのままでは城中の士気に関わるんだ」
 これまで何度もけんかして、怒ったり怒らせたりしてきたが、たぶん今日が一番怒らせた。
 源次郎は声を荒げた後、苦しげな顔をしてこちらを見ている。
 きりはいたたまれない気持ちで、深く頭を垂れた。
「ごめんなさい、ひどいこと言いました」
 そして、その場に直ると三つ指をついて、源次郎と同じ目の高さになる。
「源次郎様を信じている方々のために、どうぞお城に戻ってください。真田が寝返ったという噂が流れたのは知ってますか。それでもお上様はあなたを信じているの。たぶん、大野様や毛利様も。殿様は、気持ちが揺れていらっしゃるようだけど、あのお方は周りでいろんなことを言う人がいるから……。大助様は、父上が裏切り者呼ばわりされて、どれほど悔しい思いをしていることか。徳川に一泡吹かせて、お上様と殿様をお助けできたら大勝利とはなりませんか」
 源次郎は何も話さず、空を見上げているばかりだった。
 言うべきことは何もかも言えたと思う。憎まれ口なんてきかずに、最初からこう切り出せば良かったのに、なぜ上手くできなのか。今更ながらこの性分が恨めしい。
 後はただ源次郎の判断を待つしかなかった。
 静寂は重たく、その中を湿気を含んだゆるい風が通り抜ける。

「わたしは、きり様の言うほうに分がある気がしてきました」
 ずっと控えていた佐助がおもむろに口を開いた。源次郎が振り返って目が合うと、少し戸惑ったようにしながらも「『素破が死ぬときは信用を失ったとき』が師匠の教えでしたので」と続けた。
 佐助の言葉をきっかけに、とうとう源次郎が沈黙を破った。
「きり、一つ聞きたいんだが、お上様と殿様を助けるとは、どういうことなんだろうか。今となっては豊臣の家臣として牢人を召抱えるどころか、百石の領地だって無理な話だ。では、どうすれば助けることになるの、か」
 その目はもう彼方の世を見てはいない。手を伸ばせば届くところにいる生身の人を捉えていた。
「ああ、そうね……」
 確かに、先のことまで深く考えていなかった。目の前に道の開けたことに浮きたつ思いのきりの先を、源次郎は考え始めている。
 あの方々は、ただ命が助かれば良いわけではないだろう。だが、ふと、ある思いが湧き上がった。
「お上様に限っていえば、外から城が落ちる様子を眺めたら、とりあえず気分がすっきりするんじゃないですか」
「豊臣家が滅びるのを望んでいるというのか」
「わたしが関白様の側室に上がるかどうかって話、覚えてますか」
 源次郎は無言で頷く。佐助は目をむいて固まっていたが、今は説明しているいとまはない。
「例えば、あの方が無理やりわたしを側室にしたとしたら、きっと恨んだでしょうね。関白様は人柄も見目も良く、わたしとは似合いの年頃でしたけど、それでもね」と、言ってから源次郎の様子をうかがうと、苦笑いを浮かべている。
「太閤殿下は、猿じじいだし、趣味悪いし、権力をかさに着ておなごを思い通りにする人で、そのうえお上様にとっては恨んでも恨み足りない親の仇でしょ。その人の城が落ちたら、そりゃ生き返ったようにすっきりしますね」
 言い過ぎた、と心の中で反省すると、北政所様のおっとりとした笑みが胸をよぎった。寧様があのように懐の大きなお方でなければ、今のきりはいなかったはずだ。
「太閤殿下と夫婦としてうまくやっていけるのは、この世で北政所様だけでした。きっと子を想う母としてのお上様にとっては、豊臣の家は大事なんです。でも、ご自分だけのことをいえば、すっきりさっぱり、じゃないかしら。殿様は、事ここに至ったからには、母上とは関係なく、生きるも死ぬも好きなようになさればいい。もう立派な殿御なんですから」
 お上様の気持ちを勝手に推し量り、あまつさえその境遇を自分と僅かばかり重ね合わせて、思い付くままにしゃべったが、本当のところはどうなのか。捉えどころのない人だし、当たってはいないだろう。
 源次郎は「そんなことで、すっきりさっぱりするのは、おまえだけだ」と笑ったが、わずかばかりの陰が感じられた。
大坂城が豊臣のお城じゃなくなるのは、寂しくないと言ったら嘘ですけどね」と、その陰の色に同意する。あそこには源次郎ときりの人生の半分が詰まっているのだから。
 源次郎はしばらく思いを巡らせている様子だったが「そういうことか……なるほど」と、つぶやいた。何かしら自身の中で得心がいくものがあったのだろうか。
 やがて「では、城に戻る」と、立ち上がった。
「急ぎましょう。昼過ぎになぜか厨から火事が出て、少しづつ広がっているんです」
 きりがそう促すと、源次郎と佐助は顔を見合わせて絶句した。


 徳川兵の骸から引き剥がした具足を、主従二人は身につけた。陣笠を被ってしまえば、見た目はただの雑兵だ。源次郎の甲冑一揃いと、他にも真田とわかる品々は全部ここへ置いてゆく。
 源次郎の策はこうだ。この場所が徳川方にばれなけれそれで良し。ばれたとしても、真田左衛門佐がまだ生きていて、雑兵に紛れているとなれば敵を撹乱できる。兵が互いに疑心暗鬼になってくれれば士気も下がるだろう。
 策を語る源次郎はやはり、きらきらと眩しく見えた。
 甲冑は敵を挑発するかのように、社に上る石段に整然と並べられた。細かい品もみな揃え、最後に源次郎の掌に朱赤の紐でくくられた銭が残った。ずいぶん昔のことだが、見覚えのある物だった。
 名残惜しげに手中の物を眺める源次郎にきりは言う。
「紐を解いてしまえばどこにでもある銭、六文ですから、真田と限ったものでもないでしょう。でも、これはきっと源次郎様を守ってくれます」
 それは、ちゃりん、と涼やかな音を鳴らして源次郎の腰の巾着袋に収まった。

 

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仕切り直して、再開します

一度中断すると、再浮上は大変です。だんだん「もうどうでもいいか」という気分が大きくなっていきます。が、アクセス解析(標準で付いてるヤツ)を見たら、こんなちょっとしか書いてなくて更新止まってるブログでも、アクセス数0という日はないんですよね。やっぱり、ちらっとでも誰かが見てくれるのはありがたいですし、はっきりした数字があると、コツコツ続けることの意味を実感できて「どうでもいいか」の気分が、ちょっと前向きになりました。

年明けというには遅すぎですが、一応新年だし、書きたいことが一つできたので、気合入れ直して再開します。再開するにあたって、愚痴っぽくて暗い記事は自分の気持ちが萎えるだけなので、削除しました。愚痴はやっぱり地面に穴掘って、そこに向かってこっそり叫んで、こっそり埋め戻しておくがのがいいようです。

で、仕切り直しの最初の記事だから、今年の目標(というほど建設的なものではないが)を考えてみました。

  • 一週間に2回くらいはなんか書く
    毎日書ければ理想的だけど、たぶん無理なので、現実を見る。
  • 妄想を膨らませるだけじゃなく、その妄想を形にする
    2次創作にしても、オリジナルにしても、妄想が渦巻いてる間は楽しいが、楽しいだけで終わると何も残らない。
  • 断捨離
    長いこと使っていないものは捨てる。
  • 何となく資材を買わない
    生地とか毛糸とか。使い道がイメージできない生地は、いくらかわいい色柄でも買わない。セールに負けない強い心を持つ。もっとも危険なのはネットの手芸店のセール。

とりあえず最初の「なんか書く」を達成すべく、ノーパソコンを使うときに気が散らないように、家具の配置を変えました。